ユートランド市―
高層ビルの谷間、通りに面してスナック「ジュン」がある。
カウンターの中でグラスを磨いているジュン。
テレビゲームに興じる健と甚平。
健の後ろからはジョーが、甚平の後ろからは竜が、それぞれ覗き込んでいる。
「やったぁ!パーフェクト!!兄貴、またオイラの勝ちだね♪」
健に勝って自信満々の甚平。
「ちぇっ、またか・・・。よし、もう1回だ!」
そう言ってポケットを探る健・・・が、しばらくして
「あや〜っ、こっちもないぜ。ジュン!悪い・・・。」
「もう・・またツケなの?ったく、みんな、ツケがたまる一方よ!」
そう言って軽くメンバーを睨むジュン。苦笑いする健達。
そこへ客が1人入ってくる。
「いらっしゃいませ!・・甚平、お水!!」
「へいへい、ったく、人使い荒いんだからぁ、お姉ちゃんは・・・。」
ブツブツ言いながら水を運ぶ甚平。
「いらっしゃいませ、オーダーは?」
「ホット」
一言答えたその客は歳の頃は17、8。ジーンズにTシャツ、Gジャンといういでたち、
それにギターケースを持っていた。
明るい栗色の髪を持つどこか、あどけない感じを受ける反面、その藍色の瞳のせいか、
翳りのある少年である。
やがてサイフォンの中のコーヒーが芳ばしい香りを立てはじめた頃、
その客が口を開いた。
「あの・・・トイレ何処ですか?」
「え?トイレですか?そこの突き当たりですよ。」とジュンが答えると
「ありがとう。」そう言ってトイレに入っていった。
甚平は竜を相手にテレビゲームを始めたが、健はと言うと先程から
何事か考え込んでいた。
その様子を見咎めてジョーが声をかける。
「健、どうした?」
ジョーの問いかけに我に返る健。
「ん、さっきの客、何かおかしくなかったか?」
「え?」
「おかしいって・・どうかしたの?健。」
「ああ、トイレに行くのにどうしてギターケースをかかえて行く必要があるんだ?」
みんなが健の言葉にあっとなった時、不意に全員のブレスレットが鳴り出した。
南部博士からの緊急召集合図である。
すぐさま、店終いにかかる健達。
入り口のシャッターを下ろそうとしたジョーが健を振り返る。
「おい!さっきの坊やがまだ中にいるぜ!」
そう言ってトイレを指差す。
「やむを得まい。・・すいません。急用で店を閉めますので。」
健はそう言ってトイレのドアをノックするが返事がない。
なおもノックを続ける健の元に他のメンバーも集まってくる。
「おかしいな。人の気配がない・・・。」
そう言いながらドアノブに手を掛ける健。
ゆっくりとドアを開けると、健の背後から中を覗き込むメンバー達。
「あれ〜っ、誰もいない!?」甚平が素っ頓狂な声を上げる。
「んな馬鹿な!ここからは出てきちゃおらんぞい!!」
「一体どういう事なんだ?無銭飲食ってわけでもねーだろう?」
「ジョー、そういう問題じゃないだろう?・・・こうしてても仕方ない。
ともかく急ごう!遅れると博士がうるさいからな。」
そう言って駆け出す健。後に続くジョー達。
―Gタウン、南部博士のデスク前―
椅子に腰掛けている南部博士。その前にバードスタイルの健達が集合している。
「博士、それで俺達を集めた理由は?任務ですか?」
「うむ、実は君達に引き合わせたい者がいてな・・・。」
そう言うとすみのソファーに向かって南部博士が声をかける。
「こっちへ来たまえ。」
ソファーから立ち上がる人影。その顔を見て驚く5人。
「ああっ!?」
先程スナックジュンのトイレから消えた客であった。
「榊 翔っていうんだ。よろしく!」にこりと笑って言った。
「博士、まさか俺達と一緒に仕事をするというんじゃ・・・」
その健の言葉に表情も変えずに答える南部博士。
「そのとおりだ。」
その途端ジョーが怒鳴る。
「冗談じゃねぇ!
子供のお遊びじゃねえんだ、こんなガキに務まるわけねぇ!!」
ジョーの言葉にムッとした表情を見せる翔。
その表情を見て南部博士が
「それはわからんぞ。何なら確かめてみるかね?」そう言って翔に頷く。
フッと笑った翔がジョーに近付いたと思った瞬間、
ジョーの身体は壁の方へぶっ飛んでいた。
投げ飛ばされて目を白黒させているジョー。
健達も唖然として見ている。
「あはっ、おそまつ♪」
翔はそう笑ってジョーに手を差し伸べるが、
その手を払い除け立ち上がったジョーは不機嫌そうである。
そんな6人のそれぞれの反応を何処か楽しんでいる風情の南部博士。
「どうかね?」
「はぁ・・しかし、まさか忍者隊に組み入れる訳にはいかないと思いますが?」
とは健。
「もちろんだ。」
「それでは?」
「君達のアドバイザー兼パイプラインといった所だな。
早速だが任務についてもらおう。」
その南部博士の言葉に健達の表情が一瞬にして戦士のそれに変わる。
デスクの引き出しからマイクロフィルムを取り出す南部博士。
「これは今朝届けられた物の一部なのだが、あまりに情報量が多すぎるので
ISOとGタウンだけでは解読しきれないのだ。
これを解読出来ればギャラクターの狙いが何なのか、
その全体像がはっきりするだろう。」
「で、我々は何を?」
「うむ。このマイクロフィルムを宇宙開発センターに届けて欲しいのだ。
実はパンドラ博士が既にそちらで待機しているのでな。
健とジュンはギャラクターを引き付ける為の囮になってくれたまえ。」
「はい!」
「そして、マイクロフィルムを運ぶ役は翔、君にやってもらおう。」
「わかりました。」
「ジョーは護衛をしてくれたまえ。」
「えっ、俺が・・・ですか?」
一瞬嫌そ〜な表情をするジョー。
「まぁ、そんな嫌そ〜にしないでさ、仲良くやろうよ♪頼りにしてるぜっ!」
そう言ってジョーに笑いかける翔だが、ますます無愛想になっていくジョー。
そんな2人を見やりながら最後の指示を出す南部博士。
「そして甚平と竜はGタウンで待機!諸君、成功を祈る!!」
「ラジャー!!」
答えて部屋を出て行く6人。
その後ろ姿を見つめる南部博士。
30分後―
ユートランドの上空を飛ぶセスナ機の中にジョーと翔の姿があった。
操縦しているのは翔である。
「しっかし、お前がこいつを操縦できるとはな。
ところで免許持ってんだろうな?」
「そのガキ扱いやめてくれないか?
これでもあんたとたいして歳変わんないんだけどな・・・。」
不貞腐れて答える翔。
唖然とするジョー。
そんなジョーの様子を面白がる翔だが、ふと真顔になって
「ジョー、ちょっとばかり派手なお客がくるぜ・・。」
「何?どういうことだ?」
「後ろを見ればわかるよ。」
そう言われて後方を凝視するジョー。
しばらく見つめていると微かに黒い点が幾つか見えてきた。
黒い点はみるみる大きくなっていく。
(あれは、一体・・・?)
ジョーがそう思った時
「どうやらギャラクターの戦闘機らしいな。」
翔がジョーの思考を読んだように答える。
一瞬ギョッとなるジョー。
と、急に機体が傾く。
「なっ、何だぁ?」
驚くジョー。対象的にいたって冷静な翔。
「慌てなさんな。ミサイルをかわしただけだよ。」
見るとギャラクターの戦闘機が次々とミサイルを発射してくる。
「くそっ!予定は未定であって決定じゃねぇてことか。
どうにかならねぇのか?」
「どうにかって言われても・・・こいつには戦闘用の装備はない!!」
「何だとォ〜!?」
「とにかくミサイルをかわして逃げ切るより他に方法はないな。」
そう言いながら次々とミサイルをかわして行く翔。
しかし何時までもかわしきれる筈もなく機体をかすめた一団の一発が
右翼に命中した。
途端にバランスを崩し、左翼を下の方に傾けながら高度を下げて行くセスナ機。
「おい。どうにかならねぇのか?」
「どうにかって・・このままじゃ長くはもたないな。」
そう言いながらも何とか機体を立て直そうと必死になっている翔。
目前には森が迫っている。
「くっそ〜!このままじゃ、あの森に突っ込んじまう、
ジョー!森に突っ込む前に何とか脱出だ。合図で飛び降りろ!!」
高度はぐんぐん下がって行く。
このままでは、頭から地面に激突する事になる。
操縦管を思い切り引く翔。
機首を何とか立て直し、ホッとする間もなく翔が叫ぶ。
「ジョー!飛び降りろっ!!」
セスナ機から飛び降り地面に転がる2人。
森に突っ込んで行くセスナ機。樹が数本薙倒されて機体が爆発した。
それを見てジョーが呟く。
「フーッ、何とか墜落死だけは免れたってわけか・・・。」
「まあね。だけどまだ安心できないぜ。奴等がそこまできている。」
何時の間にかジョーの背後に翔が立っている。
だが確かに翔の言うとおりであった。
先程の戦闘機が3機、近付いてきたのである。
2人を見つけ、すぐさま機関銃を撃って来る。飛びのいてかわす2人。
「ここじゃ隠れるところがない!ジョー、ともかくあの森へ!」
「ああ!」
言うが早いか2人とも森へ駆け込んでいった。
樹々の間をぬって走るジョーと翔。
時々ギャラクターの隊員達が撃つ銃弾が身体をかすめ、足元で炸裂する。
いつもなら応戦しているジョーなのだが、連中を倒す事に体力を使うよりも
この場は逃げる事に専念しろと翔に説得され、渋々それに従ったのである。
ふと、隣を走っている翔に目をやる。
もう30分以上も走り回っているというのに、顔色一つ、それどころか
呼吸さえ乱れていない。
(こいつ、一体何者なんだ?特別な訓練を受けたのか?それとも・・・)
疑惑が次々とジョーの胸に湧き上がって来る。
と、視界が開ける。森が終わりその向こうに荒野が広がっている。
突然、ジョーを突き飛ばす、翔。
「危ない!!」
2人がいた所を機関銃の弾が走る。
見ると森の切れ目でヘリコプターが待ち構えている。
「くそっ、前門の虎に後門の狼か!」
左の拳を右の掌に打ち付けて、舌打ちをするジョー。
それに比べていたって冷静な翔。
「このままじゃ逃げ切るのは不可能だな・・・。」
「おいっ!そんな悠長な事言ってられねぇだろ。
あのヘリをどうにかしねぇと・・・。」
「確かに、雑魚が集まる前に処理すべきだな。」
「とは言うものの、こっちはロクな武器を持ってねぇしな・・・。」
ジョーの言うとおりなのだ。
武器といっても銃が一丁ずつ、それとジョーの羽根手裏剣だけ。
とてもヘリを撃ち落とせるだけの破壊力はない。
「俺がヘリの方は引き受ける!援護してくれ!!」
そう言って駆け出そうとするジョー。が、
「No!いくらあんたがサイボーグでもヘリ3機相手にしようなんて
無謀もいいとこだ!」
「何だとっ!!」
「俺がやる。あんたはここにいるんだね。」
「おい!一体なにを・・・。」
「少し静かにしててくれ!神経を集中させなきゃならないんだから・・・。」
そう言って目を閉じる翔。
と、その直後3機のヘリが突然バランスを崩して、墜落してしまう。
(一体何が起きたんだ?)
ジョーはすっかり混乱してしまっている。
「さてと・・・ジョー、邪魔が入らないうちにさっさと行こう!」
ジョーは翔に肩をたたかれて、我に返る。
「お、お前・・・。」
そう言いかけた時、ギャラクターの銃弾が頬をかすめる。
たちまち繰り広げられる銃撃戦。
しかし、多勢に無勢、次第に追い詰められて行くジョー達。
(もう駄目か?)
ジョーが諦めかけた時
『ジョー、諦めるんじゃない!』
翔の声が直接、頭の中に響いた。
驚いて翔の方を見るジョー。
心なしか強ばった表情の翔の姿が目に入る。
ギャラクター隊員に囲まれ完全に逃げ場を失ったジョー達。
隊長らしき男が声をかける。
「フフフ、折角ここまで来たってぇのに残念だったなぁ。
さあ、マイクロフィルムを渡してもらおうか?」
「No!と言ったら?」
「構わねえさ、マイクロフィルムごと、あの世へ行ってもらうだけの事だしな。
そのマイクロフィルムは解読される前にどんな手段を使っても処分すりゃあ
それで俺達の任務は終わりなんでな。」
そう言ってジョー達に銃口を向ける隊長。
他の隊員達もそれに倣って銃口を向ける。
「まぁ、運が悪かったと諦めるんだなぁ。」
その言葉を合図に一斉に火を吹く銃口。だがその瞬間2人の姿が消える。
一方、こちらは宇宙開発センター。
コンピュータールームにいるパンドラ博士、健、ジュンの3人。
先程から時計を気にして落着かない様子の健。
「おかしい。もう着いても良い頃なんだが!」
「健、落ち着きなさい。もう少し待ってみましょう。」
「しかし、予定ではとっくに着いてなければおかしいんですよ!」
「まさか、ギャラクターに・・・」
ジュンがそう言いかけた時、突然空間からジョーと翔が現われた。
床に投げ出されるジョー。
「ってぇ・・・ん?ここは一体・・・」
ジョーに駆け寄り健が声をかける。
「ジョー!大丈夫か?」
「健?一体何が起きたんだ?」
訳が解らず混乱しているジョー達。
「それはこっちが聞きたいぜ。
2人していきなり空間から現われるんだからな!」
翔を振り返る健達。ジョーが口を開く。
「さてと・・・きっちり説明してもらおうか?
何故俺達がここにいるのか?
何故ギャラクターの奴等が俺達を襲ってきたのか?」
翔の胸倉を掴んでジョーが詰め寄る。
慌ててそれを制止するパンドラ博士。
「ジョー!おやめなさい!」
「いいんだ、シルビー。っんとに短気な奴だな。放せよっ!」
ジョーの手を払いのけて話はじめる翔。
「まず1つ目、俺があんたを連れてここへテレポートした。
2つ目、それは俺にもわからない。
一応言っとくが俺はギャラクターのスパイじゃないぜ。」
「そんな事が信用出来ると思ってるのか?大体、お前がギャラクターじゃなきゃ
どうして奴等が囮に見向きもしなかった?
それに奴等の行動が事前に判ってたって事もおかしいぜ!」
激昂するジョーとは対照的に冷静な翔。
「あのなぁ・・・多少なりともテレパス能力があれば、相手の動きを事前に知るのは、
わけないんだよ・・・」
そこまで言ってハッとなる翔。
「そうか。ギャラクターにもエスパーがいれば・・・」
その言葉を引き継ぐパンドラ博士。
「そうね。こちらの動きを知るのもさして難しい事ではないわね。
とにかく翔はギャラクターではないわ。それは確かよ。」
その言葉に健が問い掛ける。
「パンドラ博士、彼とは知り合いなんですか?」
健の言葉に一瞬動揺してチラッと翔を見るパンドラ博士に
目くばせをする翔。
「彼?ええ、知り合いよ」
「最近までシルビーの助手をやってたのさ。
で、シルビーやあんた達の手伝いをして欲しいって、
南部博士に頼まれたってわけ!納得できた?
さてと、ともかくこのマイクロフィルムを早いとこ解読しちまおう!」
そう言ってパンドラ博士を促してマイクロフィルムをコンピュータにかける。
その後姿を見つめる健達。
『榊 翔』とは一体何者なのか?
パンドラ博士の示した動揺は何ゆえのものなのか?
健達の疑惑は深まるばかりであった。
〜Fin〜